Artemisにて、Sui Application Activityのローンチを発表できることを嬉しく思います。Suiメインネットが稼働して1周年を迎えた今、投資家にとってSuiプラットフォームおよびオンチェーンでのアクティビティを深く探ることが極めて重要になっています。本稿では、Suiブロックチェーンの革新的な特徴、ネイティブトークンSUIの経済面での展望、そしてSui Application Activityを活用してどのdAppがオンチェーン利用をリードしているかを詳しく解説します。¹

要約

• Suiは、オブジェクトデータモデル・zkLogin・Moveによるより堅牢なスマートコントラクトの導入などを特色とするPoS型L1ブロックチェーンである。
• SUIトークンの総供給量は100億枚で、ステーキング報酬や、投資家・Mysten Labsチーム・コミュニティ向け事前採掘分として段階的に放出されている。SUIはオンチェーンで自由にステーキング・アンステーキングが可能で、エポックごとに報酬が付与される。
• Suiは、オブジェクトデータモデルによる大規模トランザクションの並列処理により高い拡張性を実現し、利用増加時でもガス価格が安定している。
• 直近四半期でSuiエコシステムは大幅な成長を示し、TVLは前四半期比240%、DEX取引高は407%増加した。
• Sui Foundationは、賞金総額100万ドル超のグローバルハッカソン「Sui Overflow」や、Binance・Messari・a16z等の業界大手が登壇する「Sui Basecamp」など、コミュニティ強化への投資を積極化している。
• Sui Application ActivityがArtemisで公開され、リアルタイムの指標分析・オンチェーン動向・パフォーマンス把握に利用できる。

Suiとは

Sui（スウィ）は、Web3を10億人規模にスケールさせることを目指して構築されたProof-of-Stake型L1ブロックチェーンである。Suiの開発元Mysten Labsは、既存チェーンの課題を根本から見直し、非効率や不要な要素を排除した独自アーキテクチャを設計した。最も重要なイノベーションは、資産（FT/NFT）やスマートコントラクトを「オブジェクト」としてブロックチェーンに記録する“オブジェクト中心”の設計である。

多くのブロックチェーン（例：Ethereum）では、資産所有権を「アドレス＝残高」型のスマートコントラクトストアで管理するが、Suiは資産そのものをチェーン上でオブジェクトとして記録し、所有権・利用ルール・機能を自己完結的に持たせる。オブジェクトには、「単一のユーザー（またはコントラクト）のみがアクセスできる所有型」と、「ネットワーク上の誰でもアクセスできる共有型」があり、所有型オブジェクトを使ったトランザクションは順序や合意なしに並列処理できるため、並列化による高いスケーラビリティを実現する。

このオブジェクトによる並列化と堅牢な合意アルゴリズムにより、Suiプラットフォームは開発者に対して「常に十分な取引処理能力がある」こと、ユーザーに対しては「他の利用状況に左右されない安定したガス料金」を両立する。（エポック期間は約24時間）

Web3への新規参入障壁も、Suiが独自開発したzkLoginが突破した。Google・Facebook・Apple等の認証情報を使い、匿名かつ自己資産管理型のウォレットを容易に作成できるため、Web2ユーザーのWeb3移行障壁が大きく低減している。zkLoginはSui互換ウォレットのみならず、dAppがUIに直接組み込むことで、ウォレットのニーモニックや鍵の概念をユーザーに意識させない形でWeb2同様のUXを実現する。

Suiトークノミクス

ネイティブトークンSUIの主要用途は、公式Suiトークノミクス資料で5つ明示されている。

1. オンチェーン流動性：SUIはSuiブロックチェーン上の基軸通貨であり、dApp利用、アドレス間送金、FT/NFT購入など様々な用途がある。SUIトークン活用例は後掲「Suiエコシステム」セクションで紹介する。
2. ガス料金：他のPoSチェーン同様、Sui上の全トランザクションにはガス料金が発生し、チェーンの安全性確保のためバリデータやデリゲーターへの報酬や、スパム・DDoS対策に充てられている。ガス料金は大規模利用時でも低く予測可能である設計となっており、現在の平均ガス料金は約0.005ドル、過去最高でも0.015ドル程度と、SolanaやEthereum L2（Arbitrum・Base等）と同水準である。²
3. ストレージファンド：SUIはネットワークのデータ永続化コストをカバーするためのストレージファンドにも活用される。トランザクション手数料の一部をストレージファンドに割り当てることで、「Solanaのストレージレンタル」と同様に長期的な手数料の安定維持を実現している。³ Solana急成長期に有効だった仕組みであり、Suiでも同効果が期待できる。
4. ステーキング：ユーザーはSUIをステーキングしてSuiブロックチェーンのPoS参加および報酬獲得が可能である。正直かつ信頼できるバリデータへ委任（デリゲーション）すれば、いつでも引き出し可能で、報酬は約24時間ごとのエポック間で取得できる。
5. オンチェーンガバナンス：SUI保有者は、プロトコルの一部機能を変更する提案のガバナンス投票権を有する。⁴

SUIトークンは、総発行量100億枚がバリデータ・デリゲーターへのステーキング報酬や投資家・Mysten Labsチーム・コミュニティプログラム向け事前採掘分として段階的に発行されている。将来のトークン配布計画グラフはSui Foundation公式発表で公開されており、将来の配布スケジュールもAPIで透明性高く開示されている。メインネット開始（2023年5月）時点で約5%、現在（2024年4月）で約13%、2030年5月には約48%が流通予定である。

SUIはバリデータ向けステーキング報酬として発行され、ガス料金も直接バリデータへ分配。Ethereum・SolanaのようなPoS型L1がガス料金の一部をバーンして供給量を減らすのと対照的に、SUIは総量10億枚達成までインフレ型で供給が増える。

Suiのスケーラビリティ

Sui Mainnetローンチ後1年間で、1,400万超のアクティブアカウントにより36億件以上のトランザクションが送信され、現在のオンチェーンバリューは約7億5,000万ドルとなっている。これはSuiチェーン上での高いトラフィックと資金流入を示している。こうしたアクティビティ急増にもかかわらず、インフラがどのように対応し続けてきたのか、今後も「比類のない処理速度と低く予測可能な手数料」という約束を守れるのか。

Ethereumが直面したスケーリング問題や大規模インフラ移行の難しさを踏まえ、Suiプロトコル設計者は初期から「低手数料を維持する堅牢なバリデータインセンティブ」を組み込んだ。その根底にはSui独自のオブジェクト中心設計がある。

多くのL1ブロックチェーンはウォレットやスマートコントラクトアドレスを中心とするアカウント型ストレージを採用し、個々の取引がチェーン全体の状態を変更するため、取引の競合を避けるためには順序や合意が不可欠である。一方Suiは、資産を“オブジェクト”として所有者ごとに完全独立して管理できるため、取引順序が問題とならない場面を大幅に増やし、大規模な並列化（パラレライズ）が可能である。^5,6

Suiバリデータは、個別にワーカーを追加し処理能力を効率的に拡大する「水平スケーリング」に対応。100グローバルバリデータのプライベートテストネットでは、ネットワークで秒間最大297,000トランザクション処理を達成し、オブジェクト中心型ブロックチェーンの高い性能を証明した。⁷

ガス価格設計も上述のバリデータインセンティブに基づき、USD建てで低く予測可能に維持される。その仕組みは「ガス価格サーベイ」「集計ルール」「インセンティブ付きステーキング報酬分配」という3要素で構成され、バリデータは申告価格の遵守が求められ、不履行時にはスラッシュ、遵守時には報酬増、という相互監督体制である。全バリデータが低ガスを維持するよう設計されており、手数料高騰時でもガス価格引き上げよりワーカー増設によるスループット拡大にインセンティブが働く。⁶

さらにSuiは「400msのファイナリティタイム（TTF）」を誇る。SuiのTTFは取引が実質的に不可逆となるまでの所要時間、決済（settlement）は結果がオンチェーンで検証可能となるまでの全所要時間として定義。所有型オブジェクト取引は合意不要で400ms、共有型はバリデータ合意が必要となり実行・決済とも約2秒である。⁸

こうした設計により、Suiのユーザーが急増しても、バリデータは手数料高騰を回避しつつ効率的なスケールが可能である。ただし、ユーザーや開発者拡大の持続性はまた別の課題である。次にSuiエコシステムの現状を分析する。

Suiエコシステム

Suiやそのユーザー動向を正確に把握するには多くの調査が必要だが、近年はオンチェーンアクティビティを効率的に分析できる手法が整っている。今回新たにローンチしたSui Application Activityは、投資家にとってリアルタイムトレンドやユーザーアクティビティの把握を容易にした。実際にSui上のユーザー行動を見てみる。

直近3ヶ月のトランザクションセクター別内訳を見ると、2024年5月初旬に「Spamセクター」による取引急増が生じ、5月4日の取引件数は3,750万件（全体の96.04%）という突出ぶりであった。該当セクター内のどのdAppがこの活動急増を引き起こしたのか、セクター内訳で特定すると――

Spamセクターは「Spam Sui」単独のdAppである。

Spam Suiは、ユーザーがSuiネットワークでトランザクションを送信することでSPAMトークンを取得できる、Polymedia開発のコミュニティ主導ストレステストである。リリース前後で週次取引件数は1,134%増と、ネットワーク耐性の実測目的を達成した。

Spam Suiの影響でSuiの1日トランザクションは一時的に3日間Solanaを上回り、L1競合チェーンを大きく凌駕するスループットを示している。2024年6月初旬は1日約800万件の取引をこなしている。

直近注目を集めているdAppが、Telegram連携Suiウォレットで独自トークン$OCEANを発行するWave Walletである。Sui Application ActivityでWave Walletを選択すると、下記の通りdApp固有指標が確認できる。

2024年5月12日にはアクティブアドレス数が16万3,600に達し、前週比265%、2週間前比3,618%の急増。Wave Wallet経由のトランザクションも1週間で258%増の350万件以上に伸びており、主にTelegramウォレット内のOcean Gameで$OCEANをマイニングするユーザー起因である。

Spam Sui・Wave Walletといった最近のトレンドを除けば、直近3ヶ月のSuiトランザクションの主流はWormholeを使ったSuiブリッジである。Wormholeは17チェーン以上に対応するブリッジプロトコルで、2024年第1四半期のSui流入額は4億2,370万ドル（1,100アドレス・5,990万件取引）、前四半期比432%増となった。

ArtemisのEcosystem Flowsより、過去3ヶ月でEthereum発の資産がSuiへのブリッジで他チェーンを大きく上回ったことも明らかである。

DeFi

Suiへの大規模な流動性流入に伴い、DeFi利用も急拡大している。

2024年第1四半期のDEX取引高は71億ドル、前四半期比407%増。TVLも最大7億2,400万ドル（3億7,800万SUI）で240%増となっている。

Sui Application ActivityのDeFiセクターでGas（USD）順に並べると、どのプロトコルでDeFiユーザーが取引しているかが一目瞭然である。年初来のガス使用額は約8万1,976ドル（122%増）で、DeepBookが最多である。

DeepBookはSuiネイティブでCLOB（中央注文板）型流動性を提供する標準機能で、dAppが利用・拡張可能である。UI非搭載だが、CetusはDEX上に独自UIを実装。DeepBookのガス消費は年初来78%増、DeFiプロトコル・MEVボットによる利用拡大が見られる。

ScallopとNAVIは特にガス消費が突出しており、それぞれの詳細を見る。

ScallopはSui特化型レンディングで、Sui Foundationの初グラント受領、堅牢なセキュリティ、ガバナンストークン$SCAのローンチといった実績があり、Suiへの流動性流入の多くが集まっている。TVLは年初来256%増の1億2,100万ドル。貸借双方にSUI配布インセンティブも隔週で実施されており、5月13日開始の施策では25万1,000SUIを高利回りで提供、内容は各期間で変化する。

NAVIもSui上のレンディング／リキッドステーキングDeFiで、独自ガバナンストークン$NAVXも発行済。Scallopと異なり2024年ロードマップでマルチチェーン展開を掲げている。⁹ NAVIのTVLは1億4,900万ドル、年初来366%増。隔週インセンティブ施策もあり、5月13日開始の施策では最大23.99%のAPYを提示している。

DeFiではMEVボットも活発で、年初来のガス消費額は1,905%増、DeFiセクター比で22%増加。一部MEVスマートコントラクトがDeFiコントラクトを呼び出すため重複計上があるが、DeFi取引の多くが実はMEVボット由来であることを示す。

Suiでは、より堅牢で信頼性の高い「Move on Sui」言語によるスマートコントラクト実装も特徴的である。MoveはMeta（旧Facebook）開発・Mysten Labs拡張のRust系言語で、Solidityよりも高い安全性と信頼性があり、近年の大型ハッキング事例（Euler Finance：1億9,700万ドル、KyberSwap：5,470万ドル等）を背景に、安全性重視のプロトコルやユーザーの支持を集めている。

ゲーム

Suiは予測可能な低ガス料金・高トランザクション処理能力により、ゲーム分野でも展開余地が広がる。さらに「スポンサー支援トランザクション」によってユーザーが事前入金せずオンチェーンゲームにアクセスできる新しいUXも実現可能である。ただし、ゲームセクターはまだ小さく、2023年第4四半期でエコシステム比3%、以降各期0.1%未満と発展途上である。

その中でも、2024年年初来で2つのプラットフォームが台頭している。

1つ目はBlue Jay Games提供のモバイルアーケードArcade Championである。NFT「heroes」獲得・売買が可能な「play to own」モデルで、App Store評価は4.8（170件超）。2023年第4四半期にガス利用は約1万3百ドルだったが、DeFi拡大で四半期毎96%減少している。

2つ目はDeSuiLabsによるオンチェーン賭博ゲーム（Sui Coin Flip等）。取引量2,000万ドル超、Q4のガス消費額は1,200ドル、四半期ごとに93%減少。DeSuiLabsはスポンサー支援トランザクション未対応である。

2024年後半には新作ゲームの登場も期待される。Sui Basecampでの発表にはAmbrus StudioのE4C: Final Salvation、NDUS InteractiveのXocietyなどがあり、Sui対応モバイルゲーム端末SuiPlay0X1も2025年発売予定である。¹⁰

コミュニティ

Suiは賞金総額100万ドル超の初グローバルハッカソンSui Overflowも発表し、Sui未経験者も含む多様な学生・開発者・起業家を世界中から呼び込んでいる。

また、Sui Basecamp Conferenceは、Suiが新規参加者誘致・既存コミュニティ活性化に注力していることを示している。公式サイトによれば1,200名超が参加し、Messari・Binance・a16z・Aftermath Finance・Mysten Labsの主要幹部らが登壇した。

Suiはコミュニティ拡充や業界有力プレイヤーとの関係構築にも積極投資している。

まとめ

まとめると、SuiはPoS型L1ブロックチェーンとして斬新なアーキテクチャとオブジェクトモデルでWeb3次世代ユーザーの獲得を目指している。オブジェクト中心設計でバリデータの水平的並列処理が可能。DeFi偏重ながら、低ガス・スポンサー支援トランザクション・高性能・zkLogin活用でゲームやソーシャル領域にも大きな成長余地がある。SUIは総供給100億枚で、ステーク報酬や事前採掘分が段階的に分配。Sui FoundationはDeFi利活用インセンティブ、Sui Overflowハッカソン、Sui Basecampというコミュニティ拡充策を強化。そしてSuiチェーンのリアルタイム活動分析にはArtemisのSui Application Activityが有効である。

始めるには

• Sui対応ウォレット（例：Sui Wallet）を作成する
• 記事中で紹介したdAppを利用する
• ArtemisのSui Application Activityを活用しSuiの基礎やオンチェーン動向を分析する

付録・免責事項

[1] https://iq.wiki/wiki/sui-token

[2] Artemis Chart Builder

[3] Solana Storage Rent Economics

[4] Sui Tokenomics Documentation

[5] All About Objects

[6] Sui Tokenomics Whitepaper

[7] Sui Performance Update

[8] Settlement Time and Compostability

[9] NAVI Protocol

[10] Sui Basecamp 2024 Recap

免責事項：

1. 本稿は[artemis]からの転載であり、著作権は原著者[ABOUDI RAI]に帰属します。転載にご意見がある場合はGate Learnまでご連絡ください。関係手続きに沿って速やかに対応いたします。

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